2026.06.23
整っているものは、『実態』とは限らない

人材紹介という仕事をしていると、毎日たくさんの「整えられた情報」に触れます。
企業の採用サイト
会社紹介の資料
メンバーのインタビュー記事
求職者の履歴書・職務経歴書
面談での自己紹介
どれも誰かが時間をかけて整理し、外に向けて届けようとしたものです。
私たちBOXも、採用活動において、同様の行動・取り組みをしています。
私たちの仕事(人材紹介)は、その整えられた情報を読み、人と企業のあいだに立つことです。
だからこそ、ひとつ、正直に書いておきたいことがあります。
私は長いあいだ、整えられた情報にたくさん触れることで、その組織や人のことをかなり理解できると思っていました。
もちろん、それらは重要な情報には違いません。
採用サイトには企業の考えが表れますし、職務経歴書にはその人が積み上げてきたものが表れます。
ただ、それだけでは見えないものがある。
それに気づくまで、私は思っていたより長い時間がかかりました。
ある会社の採用支援をしていたときのことです。
その会社は採用広報がとても上手でした。
洗練された採用サイトがあり、メンバーの登壇記事も豊富にある。
会社紹介資料も丁寧に作り込まれていて、事業の意義や組織の考え方が分かりやすく整理されていました。
私はその情報に触れるたび、「組織として成熟している会社だな」と感じていました。
けれど実際に、その会社で働いている方や、選考に進んだ候補者の方々と話していく中で、
外から見えていたものと、内側で起きていることのあいだに距離を感じる場面がありました。
決して、嘘をつかれていたわけではありません。
採用サイトに書かれていたことも、登壇で語られていたことも、その会社の一面を表すものとしては、事実だったと思います。
ただ、それは全体ではありませんでした。
外に出ている情報は、外に出すために選ばれた情報だった。
その当たり前のことを、私は十分に理解できていなかったのだと思います。
同じことは、求職者の方との面談でも起きていました。
流暢に自己紹介をする人を見て、「考えが整理されている人だ」と感じる。 職務経歴書がきれいにまとまっている人を見て、「再現性の高い人だ」と感じる。
逆に、言葉がうまくまとまらない人を見て、「まだ整理されていない人だ」と感じる。
それは、相手の実態を見ていたのではなく、相手の見せ方を見ていた場面もあったのだと思います。
このことを、自分の未熟さだけで片付けることもできます。
けれど考えるほどに、これは人材紹介という仕事そのものが持つ、構造的な難しさでもある気がしています。
企業は採用資料を作る
求職者は職務経歴書を書く
面談では転職理由を整理して話す
私たちは日々、誰かが外に向けて整えた情報を手がかりに、人と組織を理解しようとしている。
だとすれば、「整えられた情報を実態と取り違える」という失敗は、
能力の問題というよりも、この仕事をしている限り、いつでも起こりうるものだと思っています。
では、整えられた情報の奥にある実態に、どうすれば近づけるのでしょうか。
正直に言うと、私たちも、まだ毎回手探りです。
それでも、いくつか意識していることがあります。
ひとつは、「何が起きたか」を解釈より先に残すことです。
私たちは今、自社の管理システムを作り直しています。
どの求人を紹介したのか
なぜ応募したのか
なぜ応募しなかったのか
どのタイミングで意思決定が変わったのか
後から都合よく意味づける前に、まず事実を残す。
人は結果を見たあとに、もっともらしい物語を作ることができます。
だからこそ、整える前の事実を残しておくことに価値があると思っています。
もうひとつは、条件の奥を見ることです。
求職者の方が最初に話してくださる希望条件も、ある意味では整えられた情報です。
年収
働き方
ポジション
事業フェーズ
もちろん大切な情報です。
ただ、その条件の背景には、言葉になっていない不安や期待が隠れていることがあります。
なぜその条件を大事にしているのか
その人は何を守ろうとしているのか
何を実現したいと思っているのか
私たちは条件を聞くだけではなく、その条件が生まれた背景を理解しようとしています。
そしてもうひとつは、自分たち自身を整えすぎないことです。
私たちは定期的に、個別の求職者事例をもとに振り返りをしています。
うまくいった事例を共有するためではありません。
自分が無意識にやっていたこと
見落としていたこと
別の選択肢があったかもしれない場面
そうしたものを持ち寄りながら、自分たち自身の実態を見続けるためです。
人や組織を理解する仕事をしている以上、自分たちだけが例外であるとは思っていません。
私たち自身もまた、整えられた姿と実態のあいだに距離を持つ存在だからです。
これらが、整えられた情報の奥に届くための十分な答えだとは思っていません。
組織の実態に、いつも正確に届いているわけではない。
求職者の方が本当に大事にしていることを、毎回理解できているわけでもない。
まだ解けていない問いが、ここにはたくさんあります。
それでも、私たちが引き受けたいことがあります。
整えられた表面だけで判断を終わらせないことです。
私たちは求人を紹介しているのではなく、人と組織の意思決定を支援しています。
だからこそ、「何が書かれているか」だけではなく、「なぜそうなっているのか」を見ようとする。
「何を話したか」だけではなく、「その背景で何が起きているのか」を考え続ける。
だから私たちは、整えられた情報を否定するのではなく、
その先にあるものへ、 もう一歩近づこうとし続けたいと思っています。




